皆様、こんにちは。江藤厚明です。

私と不動産業との出会い、それは今から四半世紀前になります。当時私は二十歳そこそこ。経済的な問題もあって、学校に通いながら東京銀座にある法律事務所に鞄持ちで勤務する「二足のわらじ組」の毎日を過ごしているときでした。

時代はちょうど、広末涼子さん主演の「バブルでGo」という映画で再現された、地価高騰資産バブルに突入する少し手前、大手不動産会社が密かに一等地の買収を進めている頃です。私がご奉公させて頂いた法律事務所では、その買収話を1件1件まとめて、「即決和解」という手法でフォローする業務をおこなっていました。小さな土地や住宅などを少しずつ、所有者だけでなく、賃貸で借りている方も含めて、移転先や移転料などを協議しながら権利調整していく作業です。取り纏め件数は年間数百件単位のボリュームがありました。

世間で言う、いわゆる「地上げ」という行為ですが、大手資本がおこなう再開発がらみの一環でしたので、街作りの青図、現場、そして人のつながりで仕事が進んでいく毎日は、ある意味とてもアカデミックな雰囲気もありました。右も左もまだ分からないそのころの私にとっては、それがとても新鮮だったことを覚えています。

当時の私は、その経験からか、不動産業にどこか惹かれていたのかもしれません。もともと「事業」が好きだった私は、自然に業界に入って仕事をするようになっていました。

大学は5年半かかって卒業、就職活動もしない中途半端な学生でしたが、そのまま飛び込んだ不動産の世界で四半世紀以上、現在もこの業界で仕事をさせて頂いております。

私がこの仕事を始めた学生の頃は、フドウサン屋さんとカブ屋さん(証券会社さん)は、実にイメージの悪い、不人気職種でありました。

「どうして不動産屋なの?」と、知人に真剣に訊ねられるくらい、悪く言えば、うさんくさい目で見る人もいる、そんな古きよき時代(?)の最後だったと思います。現在のスマートできれいな業界のイメージとはちょっと違う、ディープな世界を経験した世代だと思います。

不動産の世界は、今や金融の世界とITの世界との融合を果たしながら、裾野も随分広がっています。当然、内容も複雑・細分化しています。ここ15年くらいは、国内なのに取引自体は「グローバル化」する方向にも流れて、大手不動産会社には優秀な学生さんが毎年集まる業界です。

ただ、時代が変わっても、業界内でのメインフレームは、やっぱり生活の本拠となる「住むところ」と「働くところ」の販売・仲介です。

金融危機が起こるたびに、この業界は激震が走り、上場不動産会社がバタバタと倒れるときもありますが、案外、地元の零細不動産屋さんには元気なところが多いのも特徴です。マイホームや賃貸マンションの仲介で営業している不動産会社は、皆さんも割と身近にお感じ頂けておられるのではないかと思っています。

ところで、何気なく街を歩いていると、不動産屋さんの看板は結構な数、見かけておられるのではないでしょうか。よく注意して見てみると、本当にあちこちにあります。美容室やカットハウスのお店も結構いっぱいある感覚ですが、不動産会社も駅前の密集度では負けてはいません。ちょっと、数字で見てみたいと思います。

今、不動産会社は全国で12万4400社くらいあります(国土交通省 平成30年データ)。以前はもっと多かったのですが、不動産業界も少しずつ淘汰の波が押し寄せていて、これでも20年前から1割以上減っています。

1社が複数の店舗・事務所を持っている業者さんもいるので、業者数ではなく、街を歩いていて見かける実際のイメージに近い、店舗数(事業所数)でみると、全国で約35万3000ヶ所にも及んでいます。人口1億2700万人に対しての比率を単純計算すると、約360人に1店(事業所)といった感じです。ちなみに、街中でよく見かけるコンビニの数が全国で約5万5800社くらいです。やはり、不動産屋さんの数は驚異的です。

この、街中に「いっぱいある不動産屋さん」、その7割は5人未満、しかも全体の9割は10人未満という、典型的な零細会社の集団です。大きな不動産会社の出先のオフィスなんかもありますが、大半は、少人数で運営する仲介専門の零細企業群に該当します。

それらの零細不動産屋さんの多くは、主に、貸アパート・貸マンション、貸家のあっせん(仲介)を生業にしています。昔からある、小さくても駅前の人通りの多いところにお店を構えて、中がのぞけないくらい貸家のチラシを一面に張り巡らしている、あの「不動産屋」さんですが、最近は、同じ零細でも、これまでのイメージ通りの、ある意味、日本の固有種とでも言うような不動産屋さんと、少し毛色の違う、ネットを駆使した、ビジュアル系の、新種とでも言うようなきれいなお店の不動産屋さんも多く見かけるようになりました。

売上の規模からみると、また、違った景色もあります。ごく少数の大手不動産会社(全体のわずか数パーセントです)が不動産業界全体の売り上げのだいたい半分くらいを稼ぎ出しています。業界の景色は、なんとなく、農業分野と似たようなところがあります。

実は、このお話をしましたのは、理由があります。

「なぜ不動産屋さんは、規模の集約が進まず、こんなに数が多いままなのだろうか?」と、私自身がこの業界で仕事をし始めたときに、ふと疑問に思い、それからことある事に考え続けてきた問題のひとつであるからなのです。

不動産業者というのは、免許制ではあるのですが、参入するにはそれほどハードルが高いわけではありません。自分で資格(宅建士)を取るか、持った人を仲間に入れて、いくばくかの保証金の手当と所定の事務手続きさえすれば、むしろ、出入りは比較的自由といったほうが良いくらいです。脱サラで起業する方に対しても、業界内を束ねる宅建協会は、会員獲得につなげるため、とても親身で積極的に動いてくれます。

業界自体が「新規参入ウェルカム」モードなので、何年おき、もしくは何十年おきといったサイクルでやってくる、株価・不動産価格上昇の景気循環局面では、一気に業者の数が増えたりします。参入障壁が低いだけに、遊休地をもっている企業や地主さんが「にわか不動産屋さん」になって、あちこちに現れる傾向もあります。

ですが、そんな理由だけで、360人に1店(事業所)というこの密度の濃さは、ちょっと説明がつきにくいかもしれません。少なくとも、お客様のニーズが存在しなければ、いかに減ってきているとはいえ、これだけの数が未だに維持されていることはかなり不思議です。

日本国内では、平成10年(2008年)くらいまで人口は増えていました。しかも、多くの人が、大家族用の大きな家から、単身や夫婦所帯といった、少人数の家に移っていったのを機に、世帯数そのものも増え続けていきましたので、住まい探しの窓口である不動産屋さんもそれなりの数が必要だったというのは、理由の一つにはあると思います。

身近なたとえで言えば、食品がだんだん小分けになっていって、量も少しずつ減っている感じと似ています。住まいも、大きな一戸建てからマンションなどに、だんだん小分けされていって、各住戸の専有面積も少しずつ減ってきているという、どこの業界も似たような推移をたどっています。

ただ、その歴史的な推移を加味したとしても、濃密な不動産屋さん網が維持されているのは、きっと何か別の理由もあるのではないでしょうか。

この、不動産屋さんの数を支える「お客様のニーズ」とはいったい何なのか? 私は一時期、「そのニーズをつかめば、大きな需要があるのでは?」と思って、ハウツー本に書いてあるようなことをいろいろやってみた時期がありました。今から考えるとほとんどは小手先・拙速で、当然完敗といった状態ではありましたが…。

そのときの学習効果というわけではないのですが、今では「なぜ不動産屋さんはいっぱい数が保たれているのか」ということに対して、少し別の考え方ができるようになりました。

逆説的ではありますが、この膨大な不動産業者の数こそが、お客さんの求めているニーズそのものなのではないだろうかと、今は思っています。

たとえば、美容室や飲食店。それぞれの人の趣味嗜好、世界観で選ばれる典型的な仕事です。世界観の問題ですから、色々なお店が、それもどちらかといえば零細のお店が、たくさん競い合って存在しています。不動産屋さんも同じ面があるのではないかと考えるようになったのです。

不動産業者の仕事は、情報提供の部分ばかりがクローズアップされがちです。確かに「不動産」という名前の通り、動かないものを扱うので、「情報」の形にして流通させないと、マーケットとして成り立ちません。その意味で「情報提供業務」はとても大切な仕事です。

私が所属している公益社団法人不動産保証協会(全日不動産協会)のマスコットは「うさぎのラビーちゃん」です。これは、業界団体を最初に整備した政治家の方のお名前から取ったということもあるのですが、情報をいち早く、長い耳でキャッチという意味も込められています。

ですが、最近では、「情報提供業務」の大部分は、実は広告業界の方がITを駆使したシステムを構築されておられて、それを不動産会社のほうで、どれだけうまく取り入れて活用し、お客さんに上手に「見せる」ことができるか、つまり、コンサルティングさんにお金をどれだけかけているかを競っているのが実態で、今では「情報提供業務」それ自体は不動産業者の本質的な業務ではなくなってきているという現実が一方であります。

もちろん、「動く情報」になる前の、「売りたい」とか、「買いたい」といったご希望をお持ちの方と最初に直接コンタクトする、というところは、それぞれの不動産会社さんの人脈の広さとか、技術力の高さが必要で、この部分は今も昔も不動産屋さんの「肝」の部分でもあります。

ところで、この、「情報」という言葉なのですが、実はとても曲者(くせもの)ではあります。一般的には、お客様側がイメージしている「情報」というのは、情報誌やポータルサイトの不動産情報といった、「量」に重きがおかれているのではないでしょうか。

ですから、なんとなく、情報量が豊富とか、大きい会社、といった「外見」の部分で不動産業者を自然と見比べてしまっているのではないかと思います。

ですが、実際に「自分のサイズ感、あるいはニーズに合った不動産を探す」という段になると、情報量(わかりやすく言うと物件の広告掲載写真の枚数)よりも、極端なことを言えば、情報は「形はどうであれ、私に合った情報」ひとつだけで事足り、かつ、その見つけた1つの情報をもとに思ったとおりの取引を実行できさえすれば、それが最良ということになります。

つまり、売り手さん、買い手さん(借り手さん、貸し手さん)の個々の立場に立ってみると、膨大な情報量という「マス媒体」は、最初はとても心強い印象があるのですが、実際に「私の取引」を現実に処理していく段階では、量や大きさといった外見ではなく、むしろ、質と成果という中味だけしかいらないという、突然、「ニッチの世界」に入っていくことになってしまうのです。

情報は、入手する局面と、それをどう使うかという、二つのレベルがあります。どんなに素晴らしい情報であっても、現実に自分の描く取引が成立しなければ、検討者にとってその提供情報は、結果として意味をなさなかった、ということになります。

現状の不動産業者に最も要求される能力は、依頼者のニーズに沿う形で情報を取捨選択して、それをもとに安全確実に取引を成し遂げることができる「情報処理能力とそれに伴う実行力」に主軸が移ってきています。

つまり、単なる情報提供屋ではなくて、情報処理及び実現化業務という色合いが強くなってきているということなのですが、この、情報を選択し、実行するというのは、言葉で言うのは簡単なのですが、扱う情報量が多ければ多いほど、現実にはとても難しく、ある種の知見と経験則が要求されます。

それをお手伝いするのが、実は不動産業者の本質で、お客様がご自身の世界観と合った不動産屋さんを見つけ、見つけてもらった不動産会社は、お客様のご要望に添った情報処理と取引実行をセットするというのが、今の不動産業者の存在意義ではないかと、私は考えています。

くり返しになりますが、不動産屋さんの仕事というは、実は情報提供屋さんや案内屋さんで終わるわけではありません(それらの仕事は重要な業務の1つではありますが…)。駅前にあるアパートあっせん専門の不動産業者さんであっても、昔からあるお見合いの仲人さんの仕事と似ていて、その本質は「住んだ後の安心保証付きのマッチング屋さん」だと、私自身はイメージしています。

そういう意味で、不動産屋さんが行うマッチング業務は、大量に、画一的・機械的流れ作業にするには、少し難しい一面を持っています。また、ミスリードで、お客さんに法的な責めを負う損害が生じたら、注意義務違反として関与した不動産業者は損害賠償義務を負うという面で、安心な「保証付き業務」なのだと考えています。

仕事のできる不動産会社、あるいは担当者は、無意識に、売り手・買い手(貸し手・借り手)の希望を、その方の背景にあるものも想像しながら、上手に調整をしていきます。そして、大量生産の工業製品とは違う、均一性のない不動産をそれこそ一つずつ丹念に調べ上げながら、人間力を駆使して最適な組み合わせをつきつめていくという人たちです。見た目、地味な作業を黙々とこなし、ある意味オタク的要素が入っている人も少なからずいますが、そんな人たちが、この業界ではスーパープレイヤーになることが多いのも事実です。

依頼する側は、質の高い不動産を得ること、あるいは安全な取引にするために、対価を払います。当然、対価を払うだけの価値がある人に取引を任せたい、そう思うはずです。そのためにはまず、自分の世界観を理解してくれる、信頼の置ける会社や営業担当を探し出す必要があるのではないか? 実はお客様のほうでも、なにげなく感じておられるのではないでしょうか。

そう考えてくると、極端に言えば、依頼者の持っている世界観の数だけ不動産会社のニーズが必要なわけで、一言で言うと、ウマが合う、合わないの選択肢を求めるマーケットニーズを満たすために、これだけの密度の不動産会社が存在しているということなかもしれない…、私自身は最近、そう感じています。特に、ディテールにこだわる日本のマーケットでは、なおさらだと思います。

もし、この考えが正しいのであれば、世界観が似ていて、お友達になれる人との出会いがあれば、不動産取引の半分は成功したも同然なのかもしれません。

お取引をご検討されておられるすべての方に、たくさんのお店・担当者の中から、「自分にとってウマの合う人」とのすばらしい出会いがありますよう、心から願っております。